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産業医・保健師

産業医の歴史~産業医に期待されるものとは?

産業医制度とは、労働者の健康を守り、職場の安全性を高めることを目的として設けられた制度で、事業所における医療の専門家である産業医の配置を義務付けています。本記事では、産業医制度の変遷と、その過程での目に見える変化、そして現代における重要性について解説します。

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産業医制度の誕生

産業医制度の起源は、労働者の健康保護という社会的要請から始まりました。第二次世界大戦後、急速な産業の発展とともに、労働環境の悪化が深刻化し、労働者の健康問題がクローズアップされました。これに対応する形で、産業医制度が導入されたのです。

当初の制度は、あくまでも専門家の助言に頼る形での実施であり、その後、数度の法改正を経て現在に至ります。特に、労働者数の基準の変更、産業医の権限や役割の拡大、産業医と企業との関係性の明確化など、時間の経過と共に、その制度は徐々に強化されてきました。

現在、産業医の役割は、労働者のメンタルヘルスやストレス管理にも広がっており、労働環境の改善や健康促進に向けた取組みが求められています。これにより、産業医は企業の生産性向上にも寄与する重要な存在となっています。

産業医制度の歴史

日本における産業医制度は、1938年の工場法による常時500人以上職工のいる事業場での工場医の選任義務から始まりました。次に1947年に労働基準法が制定され、一定規模以上の事業所に産業医を配置することが義務付けられました。この法律により、産業医の役割が正式に認められました。1972年以降は労働安全衛生法で、産業医の選任について定められています。1970年代から1980年代にかけて、産業医の専門性が高まり、労働者のメンタルヘルスやストレス管理に関する取り組みも重要視されるようになりました。現在では、産業医は健康診断や職場環境の改善だけでなく、メンタルヘルス対策や健康促進活動にも関与しています。また、労働安全衛生法や関連法令に基づき、企業の健康経営を支援する役割も果たしています。

このように、産業医は時代とともに進化し、労働者の健康と安全を守るための重要な役割を担っています。

法令

選任規模

事項

1938年

(昭和13年)
(改正)

工場法

常時500人以上の職工
(昭和15年の改正後100人以上)

工場医の選任を義務付け

1947年

(昭和22)

労働基準法

常時30人以上の労働者(製造業)

常時50人以上の労働者(その他)

医師である衛生管理者の選任を義務付け
(医師ではない衛生管理者及び常時1,000人以上の労働者を使用する事業場の医師である衛生管理者は専属)

1972年

(昭和47)

労働安全衛生法

常時50人以上の労働者

産業医の選任を義務付け
(常時1,000人以上の事業場又は一定の有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場は専属、常時3,000人以上の事業場は2人以上選任)

1988年

(昭和63)

産業医の職務として健康診断の結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること、健康教育、健康相談に関することが追加された。

1996年

(平成8年)

・産業医は労働者の健康管理を行うのに必要な一定の要件を備えた者でなければならないとされた。

・産業医は事業者に必要な勧告ができることとされた。

・常時使用する労働者が50人未満の事業場において、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるよう努めることとされた。

2005年

(平成17)

産業医の職務として、面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することが追加された。

2015年

(平成27)

産業医の職務として、ストレスチェックの実施並びに面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することが追加された。

※出典:厚労省ホームページ 第1回産業医制度の在り方に関する検討会  資料2 産業医制度について
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-

産業医制度について

日本における産業医制度は、主に「労働安全衛生法」に基づいています。産業医制度とは、従業員の健康管理および職場環境の改善を目的とした制度で、産業医の選任が義務付けられている企業もあります。産業医は、一般的な医師資格に加え、労働衛生の専門知識を有する医師で、従業員のメンタルヘルスや職場での健康問題に対するアドバイス、健康診断の実施、職場環境の改善提案など、幅広い役割を担います。

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制度導入の義務と対象

産業医制度の導入義務は、従業員数や業種によって異なりますが、原則として50人以上の従業員を持つ企業に適用されることが多いです。また、特定の危険・有害作業を行っている企業では、従業員数に関わらず産業医の選任が求められます。

産業医の役割

産業医は、以下のような役割を担っています

・労働者の健康管理
産業医の最も基本的な役割は、従業員の健康管理を支援することです。健康診断の結果に基づく個別の保健指導や職場復帰支援、ストレスチェックの実施と結果に基づく面談の実施など、従業員一人ひとりの健康状態を把握し、適切なアドバイスを行います。また、病気やけがをした際の対応や、適切な医療機関への紹介も重要な業務です。

・職場環境の改善
健全な職場環境の構築は、従業員の健康を守るうえで欠かせません。産業医は、職場視察を通じて労働環境の問題点を把握し、過重労働の防止、就業規則の見直し、作業環境の改善提案などを行います。このような取り組みにより、労働災害の予防や職場の快適性、生産性の向上に寄与します。

・メンタルヘルス対策
近年、メンタルヘルスの問題は職場での大きな課題となっています。産業医は、ストレスチェックの実施やメンタルヘルスに関する問題の早期発見・早期対応をサポートします。また、企業に対して職場のメンタルヘルス対策の強化を提案し、健全な職場環境の構築を促進します。

・災害時の健康管理
災害や緊急事態が発生した際には、産業医は従業員の健康と安全を守るための対策を講じます。緊急時の健康管理や心理的サポート、避難所での衛生管理など、産業医は企業のリスクマネジメントの面からも重要な役割を果たします。

・従業員への教育と啓発:
健康管理だけでなく、従業員自身が自らの健康を管理できるようにするための教育も産業医にとって重要です。健康づくりのためのセミナーの開催や、個々の従業員に向けた健康アドバイスも行います。また、健康管理の重要性について従業員に認識してもらうための啓発活動も、職場の全体的な健康状態を向上させるうえで不可欠です。

産業医の資格

産業医の資格は、労働者の健康と安全を守るために必要な専門的な知識と技能を持つ医師に与えられるものです。日本における産業医の資格について、説明します。

  • 医師免許
    産業医になるためには、まず医師免許を取得する必要があります。これは、医学部を卒業し、国家試験に合格することで得られます。

  • 産業医の要件
    産業医となるための要件としては、医師であることに加え、産業医は、厚生労働省令で定める要件を備えたものでなければなりません。(労働安全衛生法第13条第2項)。*

. 法第十三条第一項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)
を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者 

. 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学
その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者で
あつて、その大学が行う実習を履修したもの

. 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの

. 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師
(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者

. 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

 ※出典:厚労省ホームページ 産業医の関係法令
https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf

 1つ目の要件「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修」とは具体的には以下の研修・講座のことです。

  • 医師会の産業医研修
    医師会などが開催する基礎研修で、50単位以上を取得する必要があります。

  • 産業医科大学の講座 
    産業医科大学の産業医学基本講座は、産業医科大学の卒業生でなくても産業医科大学が修士以上の学力を有すると認めた場合、受講することができます。

  • 認定産業医
    研修を修了した医師は、産業医としての資格を持つことになりますが、さらに「認定産業医」としての資格を取得することも可能です。これは、特定の基準を満たし、認定機関から認定を受けることで得られます。

  • 継続教育
    産業医は、医療や労働環境に関する知識が常に更新されるため、定期的な継続教育や研修を受けることが求められます。これにより、最新の知識や技術を身につけ、労働者の健康管理に貢献することが期待されます。

企業の義務

職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠なことから、常時 50 人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければなりません。*

 ※参考文献:厚労省ホームページ 産業医について
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/080123-1.html

企業にとっての意義

産業医制度の導入には、以下のような意義があります。

  1. 従業員の健康維持
    産業医による定期的な健康診断や相談を通じて、従業員の健康問題を早期に発見・対応することができます。

  2. 労働生産性の向上
    従業員の健康が保たれることで、病欠が減少し、労働生産性が向上します。

  3. メンタルヘルス対策
    ストレス管理やメンタルヘルス不調の早期発見につながり、長期的な休職を防ぐことが可能になります。

  4. 職場環境の改善 
    職場環境の問題点を専門家の意見をもって指摘し、改善することができるようになります。

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従業員のメンタルヘルス管理に悩む、人事や総務担当者の方は多いのではないでしょうか。労働安全衛生法で定められたストレスチェック制度を適正に実施するためには、産業医との適切な連携が不可欠です。

産業医に期待されるもの

近年、働き方改革や精神的健康への意識の高まりに伴い、産業医の役割はこれまで以上に重要となっています。産業医は、労働者の健康管理や労働環境の改善に直接関与する専門職であり、労働者が心身ともに健康で生産性の高い職場環境で働けるようサポートする役割を担っています。近年の産業医に求められるスキルについて整理していきます。

コミュニケーション能力

産業医は従業員と経営層の双方とコミュニケーションを取る必要があります。従業員に信頼され、健康相談を受けるためにも、親身になって聴き、適切な助言ができるコミュニケーション能力が不可欠です。また、経営層に対しては、健康管理の重要性やリスク軽減のための提案を分かりやすく伝える能力が求められます。

メンタルヘルスケアの知識

労働者のメンタルヘルスは、職場環境と密接に関連しています。ストレスが過剰にかかる仕事、ハラスメントなど精神的負担が大きい環境で働いている従業員は少なくありません。産業医には、こうした問題に気づき、適切なケアや職場環境の改善をアドバイスできるメンタルヘルスケアの専門知識が求められます。

健康経営に関する知識

産業医は健康経営を推進する上で重要な役割を果たします。健康経営を実践するためには、以下のような活動を行うことが求められます。

  • 健康診断、データ分析:健康診断結果を元に、従業員の健康状態を把握し、必要な改善策を提案します。
  • メンタルヘルス対策の支援:従業員のストレスやメンタルヘルス問題に対応し、ストレスチェックやカウンセリングを実施します。
  • 職場環境改善:労働環境を改善し、従業員が快適に働けるようにアドバイスを行います。
  • 健康促進プログラムの実施:従業員向けの健康セミナーや運動プログラムを提供し、健康づくりを支援します。

法令・規制の知識

産業医は、労働安全衛生法をはじめとする関連法令や、精神健康対策、ハラスメント防止策などの最新の動向に詳しくなければなりません。法的義務の遵守だけでなく、従業員の健康を守り、働きやすい環境を作るために、これらの知識を活用して経営層に働きかけます。

アセスメント能力

産業医には、従業員の健康状態や職場環境を正確に評価するアセスメント能力が求められます。健康診断の結果や労働環境の分析をもとに、リスクの早期発見や必要な健康管理プログラムの提案ができる能力が不可欠です。

継続的な学習

医学および関連分野は日進月歩であり、新しい病気の発見や治療法、労働環境に関する新しい理論や技術が常に出現します。産業医としての専門性を維持し続けるためには、継続的な学習と自己啓発が欠かせません。

まとめ

産業医には多岐にわたる役割と責任があり、その活動は従業員の健康維持や向上だけでなく、職場全体の生産性向上にも寄与します。現在、産業医に求められることは、これまで以上に幅広い知識とスキルが必要とされており、職場におけるその存在価値は計り知れません。企業としても産業医と協力し、従業員が健康で活力ある職場環境を実現するための取組みを進めていくことが重要です。

産業医の選任でお悩みの際は、SOMPOヘルスサポート「産業医With」にご相談ください。
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