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3分で読める!人事お悩み相談室~メンタルヘルス不調者を発生させないようにするには、どうしたらいいでしょうか?~
目次
普段より私どもは、メンタルヘルス対策や健康経営をご支援させていただく中で、人に関するさまざまなご相談をいただきます。このコラムは、多くの人事の方々からいただくお悩みにお答えする形でどうしたら、従業員の皆さまに、より元気に、より幸せに働いてもらえるのか、考えていこうという内容になっております。
私どもは、2007年から企業のメンタルヘルス対策のご支援をしてきましたが、これまで最も多く受けたお悩みは、やはり「メンタルヘルス不調者を発生させないようにするには、どうしたらいいでしょうか?」ということだと思います。
なぜ、うつ病になるのか?
メンタルヘルス不調、中でも企業で多くみられるのは「うつ病」です。そもそも私たちは、どうしてうつ病になるのでしょうか。それは、意外にも5億2千年前に誕生した魚の研究から明らかになった、とする研究発表がありました。非常に原始的な脳しか持たない魚であっても「ある条件」を作ると、天敵から身を守るために脳に備わっている「偏桃体」という部分が暴走し、うつ状態になることがわかった、というものです。
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今回は、復職支援のあり方について記載をいたします。厚生労働省の調査によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスがあると感じる労働者の割合は60%近くにのぼります。
うつ状態になる 「ある条件」とは?
うつ状態になる「ある条件」とは・・・「継続する極度の緊張状態」です。
普通の水槽で飼育している小魚と、天敵である大きな魚と一緒の水槽に入れられて飼育された小魚とを比較した実験です。後者の小魚たちは、最初の頃は逃げまどっているのですが、ある時期を境に、底のほうに沈んだまま、みんな動かなくなってしまいました。通常飼育の小魚たちと天敵と一緒の小魚たちを比較してみると、後者の小魚たちにはストレスホルモン(コルチゾール)が大量に出続けていました。その結果、うつ状態になってしまったのです。
私は映像でその様子を見たのですが、活き活きと自由に泳ぎ回っている普通の小魚たちに比べて、後者の小魚たちは本当にしょんぼりとみんなで水槽の底にいて、かわいそうになってしまいました。このように生命の危機を感じているのに、なすすべがない・・・という状況にさらされ続けると、つまりストレスホルモンの分泌が止まらなくなると、うつ状態に陥ってしまうということです。
ただ、自然界では「継続する極度の緊張状態」というのは、実は余りないのですね。脳の「偏桃体」という部分が暴走し、うつ状態になると書きましたが、扁桃体は、もともと危険を察知し危険から逃れるために必要な部位です。危険を察知すると、偏桃体が活性化しストレスホルモンが分泌され、全身の筋肉が活性化し(興奮状態・覚醒状態)、筋肉が活性化されると、運動能力が高まり天敵から素早く逃げることが可能となり、危険が去るとストレスホルモンの分泌は収まります。自然界における動物たちは、これを繰り返しているだけなのです。
一方、私たち人間の社会では「継続する極度の緊張状態」・・・ありますよね。私がこの小魚たちを見ていて、咄嗟にイメージしたのは、ハラスメントをする上司が職場にいて、いつもビクビクと委縮している社員たちの姿です。他にも、こなしきれない大量の仕事をゴールが見えない状態で課されている、顧客からの理不尽なクレームや要求に頻繁にさらされている、などの状況も考えられます。そのため、人間社会では、ストレスホルモンが過剰に分泌され続けるということが起こり、脳の神経細胞がダメージを受け、うつ病が発生する、ということになります。
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偏桃体を暴走させる要因
その他にも、その研究の中では、2億2千年前に誕生した哺乳類は偏桃体を暴走させる要因を新たに生み出してきた、と紹介されていました。
<偏桃体を暴走させる要因>
・群れを作り、外敵から身を守る社会性が発達したために・・・【孤独】に弱くなりました。
・記憶を司る脳の部位「海馬」が発達したために・・・【恐怖の記憶】が残りやすくなりました
・言語を使用するようになったために・・・【言葉によるダメージ】を受けるようになりました
・農耕と食料の蓄積、権力と富を持つ者が出現したために・・・【不平等】にストレスを感じるようになりました
最後の【不平等】に関して面白かったのは、「平等」と「扁桃体」の関係に注目し、実験を行ったところ、
・自分が損する場合 → 扁桃体が激しく活動する
・ほぼ公平に分け合う場合 → 扁桃体はほとんど反応しない
・自分が得する場合 → 扁桃体が激しく活動する
という結果となり「得する立場」でも「損する立場」と同じくらい、ストレスホルモンが出る、ということです。一時的には得をしても、不平等が存在するという環境そのものが、危機感を刺激するのだと思います。一連の研究結果を見て「これらと反対の環境を職場でつくることができれば、うつ病を予防できるはず」と私は思っています。
1.ハラスメントや「ゴールのない過度な負担」は取り除く
2.コミュニケーションをお互いにとり、孤独にさせない
3.失敗などの体験を「恐怖の記憶」にさせないようなフォローがある
4.言葉で相手を傷つけるのではなく、ポジティブな言葉が飛び交っている
5.発言の機会や、評価される機会が平等にある
メンタルヘルス不調者の数をゼロにすることは、なかなか難しいことと思いますが、ゼロにしていきたいんだ!という理想を諦めることなく、私たちは、人事の皆さまと一緒に、職場環境の改善に取り組んでいきたいと思います。
------------☆筆者プロフィール☆------------
桜又 彩子(さくらまた あやこ)
SOMPOヘルスサポート株式会社
シニアゼネラルコンサルタント
システム開発会社の人事部で7年間勤務の後、
2007年よりSOMPOヘルスサポートにてメンタルヘルスおよび健康経営の
コンサルティング業務、研修講師などに従事。
【保有資格】
特定社会保険労務士
キャリアコンサルタント
シニア産業カウンセラー
ポジティブ心理学プラクティショナー
健康管理士一般指導員 など