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3分で読める!人事お悩み相談室~「ストレスチェック後の全員面談から見えてくるもの」
普段より私どもは、メンタルヘルス対策や健康経営をご支援させていただく中で、人に関するさまざまなご相談をいただきます。このコラムは、多くの人事の方々からいただくお悩みにお答えする形でどうしたら、従業員の皆さまに、より元気に、より幸せに働いてもらえるのか、考えていこうという内容になっております。
ストレスチェック 集団分析の活用
さて、貴社では、ストレスチェックの集団分析をどのように活用していますでしょうか。私自身が、比較的多くご提供する機会があるのは「高ストレス職場全員(キーマン)面談」です。
集団分析の結果、特に高ストレスな結果が出ている部署、そして、人事もその原因をイマイチつかみ切れていない部署に対し「外部の専門職」という立場で、その部署の皆さんに面談でヒアリングをするのです。
「今回、あなたの部署はこういう結果だったのですが、何か思い当たることってありますか・・・?さもありなんと思いますか?それとも、意外な結果ですか・・・?」
というような感じで、話を引き出していきますと「いやー実は・・・」と、けっこう本音の部分、部署の問題の深い根っこの部分をお話してくださいます。外部の人間なので、話しやすいのだと思います。
集団分析の数値的な結果で「こんな状況なのでは?」という、ある程度の「仮説」は立てられるのですが、やはり、その数値の裏側で何が起こっているのかは、実際の現場に話を聴いてみないとわからないものです。
職場は多面体です。プリズムのように、見る角度によって、全然違う光り方をします。つまり、人によって全く異なることを言うのです。
同じ部署に所属して、同じ上司のもとで、同じメンバーで仕事をしているのに部署の課題をどう捉えているのかは、人によって違うのですね。
例えば、同じ上司に対する話でも、Aさんから聞くと、すごくいい人に思えるのに、Bさんから聞くと、とんでもない人に思える。そういうことが、普通に起きます。
ただ、職場の全員に話をお伺いすることで、徐々にその職場がより立体的に、よりリアルに、様々な色を帯びて、」「現実」として立ち現われてくる感じがします。「みんなの話を総合すると、こういうことが起きているんだろうな」ということが、だんだんと「見えて」くるのです。そのため、お話を聴く相手は、できれば「職場全員」にこだわりたいと思っています。(あまりにも人数が多い場合には、キーマンに絞っていただく場合もあります)そして、本質的な課題も、見えてきます。本質的な課題が見えてくれば「それでは、どのような対策を打とうか」ということも具体的になってきます。
【関連サービス】
メンタル不調者/休復職者対応「LLax standard」
企業のメンタルヘルス対策において経験豊富な心理専門職が、メンタル不調者/休復職者への支援をするために、本人に加え、関係者や組織に対しても必要なアプローチを行います。
事例1:「上司からの支援」の数値が非常に悪い職場
印象的だった事例をご紹介させていただきます。その職場は「上司からの支援」の数値が非常に悪く、人事部と打ち合わせをした段階でも、管理職である支店長のマネジメント力が問題なのではないか、ということが「仮説」でした。
しかし、全員面談(支店長も含む)をしてわかったことは、会社から課される厳しいノルマを達成するためには、支店長自身がトップ営業マンとして動かざるを得ない・・・、という支店の実状でした。
有無を言わさず降りてくるノルマ、人が辞めても補充がない人員不足、募集をかけても人は来ない、年代構成の歪さ故のナンバーツー不在、管理職として教育を受けずに支店長を務めている実態、時代とともに増え続ける社内の事務処理・・・。
そんな状況の中、一番疲弊し、苦しんでいるのは、支店長ご本人でした。メンバーは、そんな支店長を心配しつつも、マネジメント機能がない支店の状態や、相談したいときにいつも支店長がいないという状況を訴える意味で「上司の支援」に関する設問に悪く回答していました。
このような職場の状況を想定すると、人事部から集団分析の結果を各職場に共有し「管理職は何か対策を考えなさい」という指示だけでは、なかなか現場での対応は難しいだろうと思います。
社用車で最寄駅まで送っていただきながら、支店長が漏らした「最近では、もうほとんど夜も寝られないんです 」という一言が、ずっと忘れられません。人事部には、逼迫した支店の状況をお伝えし、支店長ご本人のケア、その他考えうる対策をご提案させていただきました。
【関連記事】
ストレスチェック集団分析結果の組織長へのフィードバック方法(2)
前回は組織長を集めて、集団分析結果の説明を行う<1.集合方式>をご紹介いたしました。
今回は組織長お一人おひとりに結果をフィードバックしていく<2.個別方式>について解説いたします。
事例2:集団分析結果はよいが、メンタルヘルス不調者が定期的にでる職場
また違う職場の事例です。その職場は、集団分析の結果は、毎回よいのです。けれども、メンタルヘルス不調者が定期的に出る、そのことを不思議に思った人事からの依頼で全員面談に入ることになりました。ところが、全員の方に話を聴いても、自部署に対して、よいことしか言いません。不調者に関しては「まあ、この部署に合わなかったんでしょうね。適材適所の人材配置をしていない、人事の責任だと思いますよ。うちの部署の仕事は特殊なんで」との見解です。
全員がそんな感じでしたので「そうなのかなぁ・・・」と思いかけたのですが、何か違和感がありました。そこで、人事にお願いをして、同じフロアで仕事をしている、お隣の部署の皆さんにも面談をしたのです。
すると、自部署のやり方を肯定したいあまり、そのやり方に少しでもついていけないメンバーに対して、かなりパワーハラスメント的な言動があったことがわかりました。しかし、その部署の管理職を含め、残っている内部の人々は、それを肯定してしまっていたのです。
その部署のやり方を全否定するようなことはしませんが、それでも「メンバーがメンタルヘルスを崩してしまうようなことは、事業成功のためにも、決してよいことではない」ということを、その部署の管理職にわかっていただき、少しずつ、自部署のあり方を振り返っていただくための取組みが始まりました。
まとめ
私どもが職場に介入しても、すぐに状況が変えられるとは思っていません。会社には色々な事情があって、変えられないことも多いでしょう。
しかし「変わるかもしれない」「変えられるかもしれない」という希望がひとつでもふたつでもあれば、人は前を向けるのではないでしょうか。現場の方にその希望が生まれるための「風穴」を、私どもが開けたいな、と思っています。
そのあとは、人事部、ときには経営者の「覚悟」にかかっている、といっても過言ではありません。
現場の状態を知ったからには、改善のためのサポートをする、職場が改善されるまで、様々なサポートをし続ける。その姿勢が、小さな改善に繋がり、小さな改善が毎年積み重なって、大きな改善・・・「会社の風土」というものを構築していくのだと思います。
筆者プロフィール
桜又 彩子(さくらまた あやこ)
SOMPOヘルスサポート株式会社 シニアゼネラルコンサルタント
システム開発会社の人事部で7年間勤務の後、2007年よりSOMPOヘルスサポートにてメンタルヘルスおよび健康経営のコンサルティング業務、研修講師などに従事。
【保有資格】
特定社会保険労務士
キャリアコンサルタント
シニア産業カウンセラー
ポジティブ心理学プラクティショナー
健康管理士一般指導員 など