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3分で読める!人事お悩み相談室~怒りがコントロールできないタイプの「問題社員」への対応~

普段より私どもは、メンタルヘルス対策や健康経営をご支援させていただく中で、人に関するさまざまなご相談をいただきます。このコラムは、多くの人事の方々からいただくお悩みにお答えする形で、どうしたら従業員の皆さまに、より元気に、より幸せに働いてもらえるのか、考えていこうという内容になっております。

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問題社員への対応

さて、人事や健康相談室の方々が、時間も神経も費やして、ヘトヘトになってしまうのが、いわゆる「問題社員」への対応です。私どもがこれまでご支援してきた中でも、「最終的には人事のほうが参ってしまって、担当者がメンタルヘルス不調で休職に入る」というケースが何件かありました。今回取り上げるのは、「怒りがコントロールできないタイプ」の問題社員です。実際には、どんな人がいたのか、少し見てみましょう。

「怒りがコントロールできないタイプ」の問題社員の例

●四六時中、健康相談室に押しかけてきては、保健師さんに、何時間も上司や会社の不満をぶちまける。
●上司や同僚に暴言をはく。
●ストレスや疲労がたまると周囲に対して攻撃的な態度になる。
●敵とみなした同僚の悪口を言いふらし、立場を悪くさせる。
●机をバンバンと叩く、ごみ箱を蹴る、資料を破るなど、物にあたる。
●メールに役員を含めた大勢の人を宛先に入れ、特定の相手を文章で攻撃する。糾弾する。

困るのは、こういった「怒りがコントロールできないタイプ」の人は、「仕事はできる」、それも「抜群にできる」ということが少なくないことです。達成意欲・出世意欲・責任感が非常に強いという、仕事においてはプラスとなる性格特性が、自分に対しても周囲に対してもイライラしがち、という態度にも繋がってしまうからでしょう。

仕事ができなければ、そのことと併せて叱りようもあるのですが、なまじ仕事はできるタイプであるために、上司や会社も遠慮してしまって、きちんと注意できないでいる・・・ということがよくあります。こういう人が、仕事で評価されて管理職になった場合、「パワハラ上司」になるのは、もう火を見るよりも明らか・・・という感じがします。

また、持続する怒りの感情は、本人の心身にも大きな負担を与えます。身体のほうに影響が出る場合、心疾患の発症につながったり、心のほうに影響が出る場合、突然ポキッと折れるようにうつ病を発症したりします。周囲を許せない気持ちが強いので、適応障害という診断がつくこともよくあります。

人事が対応に苦労するほどの「問題社員」がメンタルヘルス不調で休職になった場合、人事の本音としては、「このまま、休職期間満了で退職してくれないだろうか・・・」という思いが、どうしても頭をよぎってしまいますよね。毎日怒りのメールなんかが届いていたりすると、「そんなに会社に文句があるなら、辞めたらいいのに」と思ってしまうのも、無理ないことです。人事だって人間ですから・・・。

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問題社員へ対応する際の考え方

そこでまず、問題社員へ対応するときの大前提、ベースとなる考え方をお伝えいたします。それは、「腹が立つタイプの社員ほど、丁寧に、理性的に、粛々と対応する」ということです。この言葉は、私が考えたのではなく、メンタルヘルス対応で実績のある産業医の先生がおっしゃっていた言葉で、とても印象に残っている言葉です。問題行動に対しては、毅然と叱り、指導もする。そのうえで、それが改善されなければ、就業規則に則って、粛々と対応すればいいのです。

そして、「きちんとステップを踏む」ということも重要です。例えば、休職期間中、主治医に任せきりでずーっと放っておいて、休職期間満了になったらすぐに退職、というのは、必要なステップが踏めていない、ということになります。休職期間満了退職の事案で、揉め事(裁判)になってしまった判例を読んでいると、その多くが、会社が必要なステップを踏んでいないのですね。仮に体調そのものは復職できるくらいに回復しているとして、問題社員の場合、その思考や行動のほうには改善がみられない、ということが、ままあります。復職する段になっても、まだ会社や上司の悪口を言い続けているとか・・・。

そうすると、会社側としては、「このまま復職させても、周囲に悪影響がある。会社としては、全ての社員へ安全配慮義務があるわけなので、この社員を復職させることで他の社員が不調になってしまう恐れがあるならば、復職させるべきではない」と判断したくもなります。実際、判例ではそのような趣旨のことを、会社側の弁護士が主張しています。

その主張が認められるかどうかは、ケース全体の「筋」によるのですが、少なくとも、きちんとステップを踏んで対応した、という会社側の誠意が見られなければ、認められない可能性のほうが高いのです。挙句、敗訴してしまい、ただでさえ腹の立つ社員に対して、争っていた期間中の給与を(働いてもらってもいないのに)支払わなければならない羽目になってしまうのです。そのうえで、散々争っていた本人を復職させなければなりません・・・。

必要なステップとは?

それでは「必要なステップ」とは何でしょうか。一言で言うと、「その社員を何とか職場に適応させようと努力した跡」です。

<必要なステップ>
・問題行動に対して、きちんと、複数回、指導した履歴
・「次に同じことをしたら、就業規則に則って、こういうことになりますよ」と予告した記録
・部署を異動させたり、役割や職種を変えたりしてみて、適応できるか試した履歴
・本人と面談し、対話した記録
・産業医や主治医や保健師やカウンセラーなど、専門家の意見を聴取した履歴
・休職前~休職中~復職準備段階~復職判定と、都度、適切に関わった履歴

などですね。

個別対応以外の方法

私の担当のお客さまの中には、個別対応以外にも、ハラスメント研修の中に、「アンガーマネジメント」の内容も入れてほしいとご要望される会社があります。このように、予防にまで力を入れられると、万全です。実際、ここまでの対応をすると、例え、体調が回復しきらずに休職期間満了になってしまっても、本人も、そのご家族も、「ここまでしてもらったのだから・・・」という気持ちになるものです。

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かつて、私はカウンセラーの先生に、こう教えられたことがあります。「怒りの感情の奥底には、『哀』という感情が必ず潜んでいる」
本当の気持ちをわかってもらえなくて「哀しい」。大切なものをわかってもらえなくて「哀しい」

そういう切なさを抱えているものなのだよ、と。わかってもらえなくて哀しいから怒るのだ、と。

当社の専門職が産業保健スタッフとして、お客さま企業の「問題社員」と関わると、「こんなふうに話を聴いてもらったのは初めてです」とか、「こんなに真剣に向き合ってもらえたのは初めてです」とか、「こんな気持ちを言えたのは初めてです」などと言われることがあるそうです。

ただ優しく接するのではなく、その人の今後の人生のことまで考えて、真剣に向き合うからこそ、本人も、心を開き、聞く耳をもってくれるのだと思います。

「問題社員」への対応。会社としてきちんとステップを踏んでリスクヘッジをしながら、本人と真剣に向き合う、ということも、とても大切なことだと思います。

筆者プロフィール

桜又 彩子(さくらまた あやこ)

SOMPOヘルスサポート株式会社 シニアゼネラルコンサルタント

システム開発会社の人事部で7年間勤務の後、2007年よりSOMPOヘルスサポートにてメンタルヘルスおよび健康経営のコンサルティング業務、研修講師などに従事。


【保有資格】
特定社会保険労務士 
キャリアコンサルタント
シニア産業カウンセラー
ポジティブ心理学プラクティショナー
健康管理士一般指導員  など